皮膚ムコール症とは?原因、症状から治療法まで徹底解説

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皮膚ムーコル症(cutaneous mucormycosis)は、稀な真菌感染症であり、免疫抑制状態や皮膚の損傷をきっかけに発症する可能性があります。本疾患は進行が速く、壊死を伴う重篤な病変を引き起こします。その原因は、ムーコル目に属する真菌による感染であり、主に外傷や熱傷部位からの侵入によって生じます。

診断には、臨床的評価、微生物学的検査、病理組織学的検査が用いられ、迅速かつ正確な診断が患者の予後改善に直結します。治療では、外科的デブリドマンと抗真菌薬の併用が基本です。

本記事では、本疾患の特徴から原因、診断方法、治療法まで詳しく解説します。

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疾患の特徴

皮膚ムーコル症 (cutaneous mucormycosis) は、ヒトの免疫状態が低下した際に発症することが多い稀な真菌感染症です。この疾患は、ムーコル目 (Mucorales) に属する真菌によって引き起こされ、進行が速く、適切な治療が行われない場合には深刻な合併症や死亡のリスクを伴います。


発生状況とリスク

皮膚ムーコル症は、免疫抑制状態の患者で多く見られます。以下の患者が特にリスクが高いとされています:

  • 糖尿病患者
  • 長期のステロイド療法を受けている患者
  • 白血病やリンパ腫などの血液疾患患者
  • 熱傷や外傷などで皮膚のバリアが破壊された場合

特に熱傷患者では、創傷部位が真菌の侵入経路となることが知られています。


臨床的特徴

皮膚ムーコル症の初期症状は非特異的であり、以下のような皮膚病変が見られます:

  • 発赤、腫脹、疼痛を伴う皮膚の病変
  • 進行すると、病変部が壊死を起こし、黒色の壊死組織が形成される

この壊死は、真菌が血管内に侵入し血流を遮断することで引き起こされます 。


感染の種類

皮膚ムーコル症は感染経路によって以下の2つに分類されます:

  1. 原発性皮膚ムーコル症
    • 外傷や火傷による皮膚の直接感染が原因
  2. 続発性皮膚ムーコル症
    • 他の部位(例: 肺、消化管)から血行性に広がるもの

これらの形態では、進行の速さ治療の遅れが予後を大きく左右します 。

原因と病態

皮膚ムーコル症の原因は、ムーコル目 (Mucorales) に属する真菌であり、以下の属が最も一般的な病原体として知られています:

  • Rhizopus
  • Mucor
  • Lichtheimia

これらの真菌は自然界に広く分布し、腐敗した有機物、土壌、または空気中に存在します。


感染経路

感染の主な経路は以下の通りです:

  1. 皮膚の損傷
    • 熱傷、外傷、外科手術の創傷など、皮膚バリアが破壊された部位から真菌が侵入します。
  2. 吸入または接触
    • 真菌の胞子が皮膚に直接付着した場合や、汚染された医療機器や包帯が感染源となることがあります

病態生理

皮膚ムーコル症の病態は、真菌の血管侵襲とその結果としての血栓形成および組織壊死により形成されます

  1. 血管侵襲
    • 真菌は血管内皮を破壊し、血流を遮断することで感染部位への酸素供給を妨げ、壊死を引き起こします
  2. 急速な増殖
    • ムーコル目の真菌は好酸素性であり、血流遮断による酸素低下状態で急速に増殖します。

リスク因子

以下が皮膚ムーコル症の発症リスクとなります:

  1. 免疫不全状態
    • 糖尿病
    • がん治療中
    • 臓器移植後の免疫抑制
  2. 物理的損傷
    • 外傷や火傷に伴う皮膚の損傷
  3. 医療によるもの
    • 汚染された医療器具や包帯の使用

臨床的意義

これらの病因と病態を正確に理解することで、早期診断および適切な治療の重要性が一層明確になります。

検査

皮膚ムーコル症の診断は、迅速かつ正確であることが求められます。この疾患は急速に進行するため、診断の遅れは致命的な結果を招く可能性があります。以下は、診断に用いられる主な検査方法です。


1. 臨床的評価

皮膚ムーコル症の初期診断は、患者の病歴および臨床所見に基づいて行われます。以下のポイントが重要です:

  • 病変の外観
    • 壊死を伴う黒色の潰瘍や急速に進行する皮膚病変が特徴的です。
  • リスク因子の確認
    • 糖尿病、免疫抑制状態、熱傷や外傷の既往歴が診断の鍵となります。

2. 微生物学的検査

  • 組織の直接鏡検
    • 患部を採取して真菌の特徴的な無隔壁の菌糸を確認します。
    • KOH法が迅速診断に有用です。
  • 培養検査
    • 患部から採取したサンプルを培養し、病原真菌を同定します。
    • Rhizopus、Mucor、Lichtheimia属などムーコル目の真菌を分離します 。

3. 病理組織学的検査

  • 組織学的検査
    • 特異的な真菌の形態を確認します。
    • 特徴的所見: 無隔壁で広い菌糸が血管侵襲を示す形で認められる場合があります。
  • 特殊染色
    • PAS染色Grocott染色が真菌の検出に有用です 。

4. 画像診断

皮膚ムーコル症は主に病理学的および微生物学的診断が中心ですが、MRICTを用いて以下を評価する場合があります:

  • 深部組織への浸潤
  • 感染の拡大範囲

5. 分子診断

  • 近年では、PCRを用いた遺伝子診断が研究されています。
  • これにより、特定の病原体を迅速かつ正確に特定することが可能です 。

診断の重要性

皮膚ムーコル症の診断には、複数の検査手法を組み合わせて実施することが重要です。早期診断により治療開始の遅れを防ぎ、患者の予後を大きく改善することが期待されます。

治療

皮膚ムーコル症の治療は、迅速な診断と適切な治療戦略に基づいて行われます。治療の遅れは感染の進行や生命を脅かす可能性があるため、以下の方法を迅速に組み合わせることが重要です。


1. 外科的デブリドマン

感染組織の外科的切除(デブリドマン)は治療の中核を成します。

  • 壊死した組織を完全に除去し、真菌の拡散を防止します。
  • 必要に応じて複数回行われ、感染部位の状態に基づいて判断されます 。

2. 抗真菌薬治療

抗真菌薬は、外科的治療と併用される重要な治療手段です。

  • 初期治療
    • アムホテリシンB(リポソーム製剤)が第一選択薬として使用されます。
    • この薬剤は、ムーコル目真菌に対して高い効果を示します。
  • 経口治療
    • ポサコナゾールイサブコナゾールが補助的に使用され、治療期間の延長が必要な場合に適しています。

3. 全身支持療法

患者の全身状態を改善するための支持療法も重要です。

  • 血糖管理
    • 糖尿病がある場合は、血糖値のコントロールが不可欠です。
  • 免疫抑制状態の改善
    • 免疫抑制薬の調整や中止を検討します。
  • 電解質管理
    • アムホテリシンBの副作用として生じる腎毒性を軽減するため、腎機能の管理が求められます。

4. 治療期間

治療の期間は、感染の重症度や患者の全身状態によって異なります。

  • 一般的な期間
    • 数週間から数カ月に及ぶ長期治療が必要です。
  • 終了基準
    • 臨床症状の改善
    • 画像診断の正常化
    • 真菌培養の陰性化 。

5. 新しい治療法の展望

  • 抗真菌薬の新たな開発
    • ポサコナゾールの有効性が報告され、治療選択肢の一つとして注目されています
  • 分子診断技術の進展
    • 早期診断が可能となり、治療成績の向上が期待されています
この記事を書いた人
Dr.Yale

医学部卒業後、皮膚科学の奥深さと魅力に惹かれ、皮膚科医としての道を歩み始めました。臨床での豊富な経験を通じて、commonな疾患から美容皮膚科まで幅広く対応し、多くの患者様のサポートをしてきました。
患者様一人ひとりに寄り添った診療を心がけています。

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