多形妊娠疹とは?原因、症状から治療法まで徹底解説

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多形妊娠疹(Pruritic Urticarial Papules and Plaques of Pregnancy)は、主に妊娠後期に発症する妊娠特有の皮膚疾患で、腹部や妊娠線を中心に小さな紅斑性丘疹や局面を形成し、強い瘙痒を伴うのが特徴です。その原因は完全には解明されていませんが、腹部の皮膚伸展やホルモン変動、免疫応答の異常が関与していると考えられています。診断は臨床所見を基に行われ、必要に応じて皮膚生検や血液検査で鑑別診断が行われます。治療は主に局所ステロイドや抗ヒスタミン薬による症状緩和を中心に行われ、通常は分娩後に自然消退します。

本記事では、本疾患の特徴から原因、診断方法、治療法まで詳しく解説します。

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疾患の特徴

多形妊娠疹(Pruritic Urticarial Papules and Plaques of Pregnancy, PEP)は、主に妊娠後期に発症する妊娠特有の皮膚疾患であり、以下の特徴があります。


発症時期と患者層

  • 発症時期
    多くの場合、妊娠第3三半期、特に妊娠36週以降に発症します。まれに産後直後に症状が現れることもあります。
  • 患者層
    初産婦に多く見られる傾向があり、経産婦よりも発症リスクが高いとされています。

臨床所見

  • 皮疹の形態
    初期には小さな紅斑性丘疹(じんま疹様)として現れ、その後、結節やプラーク(斑状病変)に進行します。これらは激しい瘙痒を伴うことが特徴です。
  • 発疹の分布
    腹部、特に妊娠線(ストレッチマーク)の周辺に初発することが最も多く、次第に大腿部や臀部、腕などへ広がります。一方で、顔や掌、足底には通常発生しません。
  • 病変の持続期間
    病変は通常、分娩後1〜2週間以内に自然に消退します。ただし、瘙痒感がその後も持続することがあります。

母体と胎児への影響

PEPは母体にとって非常に不快な症状を引き起こしますが、胎児に対する直接的なリスクはないとされています。
また、胎児の発育や妊娠経過に大きな影響を及ぼさないことが過去の研究で確認されています。


他の妊娠性皮膚疾患との違い

PEPは、妊娠性疱疹や妊娠性痒疹などの他の妊娠特有の皮膚疾患と症状が似ているため、しばしば混同されることがあります。ただし、これらの疾患は発症部位や病理所見、胎児への影響が異なるため、正確な診断が重要です。


疫学

PEPは比較的稀な疾患であり、特に欧米での報告例が多い一方、日本での発症率は低いとされています。
初産婦のおよそ1%に発症すると推定されています。


総括

多形妊娠疹は母体に瘙痒と皮疹を引き起こす疾患ですが、適切な診断と管理により良好な予後が期待されます。

原因と病態

多形妊娠疹(Pruritic Urticarial Papules and Plaques of Pregnancy, PEP)の原因は完全には解明されていませんが、近年の研究によりいくつかの仮説が提案されています。以下は発症メカニズムと関連因子についての詳細な解説です。


腹部の皮膚伸展と妊娠線

最も有力な仮説の一つは、腹部皮膚の過度な伸展による炎症反応です。

  • 妊娠線と炎症
    妊娠中、皮膚が急速に伸びることで妊娠線が形成されます。この物理的な変化が免疫応答を引き起こし、炎症性の丘疹やプラークを発生させると考えられています。
  • 初産婦のリスク
    初産婦では皮膚の伸展への適応力が少ないため、発症リスクが高いとされています。

ホルモンの影響

妊娠中のホルモン変動が疾患発症に関与している可能性があります。

  • ホルモンの変化
    エストロゲンやプロゲステロンの上昇が、皮膚のバリア機能や免疫調節に影響を与え、過剰な炎症反応を引き起こすことが示唆されています。

免疫応答の異常

PEPは妊娠特有の免疫応答異常とも関連があると考えられています。

  • 母体と胎児の免疫調整
    胎児の遺伝情報(半異種抗原)に対する母体免疫系の調整が、妊娠後期に炎症反応を引き起こす可能性があります。

多胎妊娠との関連

  • リスクの増加
    多胎妊娠や羊水過多の場合、腹部皮膚の急激な伸展が顕著であるため、PEPの発症率が高まると報告されています。これらの条件が疾患を引き起こすトリガーになると考えられます。

胎児の役割

  • 性別や遺伝子型の影響
    PEPの発症は胎児の性別や遺伝子型と直接の関連はないとされています。
  • 母体要因の重要性
    母体の皮膚環境や免疫応答の変化が疾患の主要因とみなされています。

遺伝的要因

  • 遺伝的関与の可能性
    明確な証拠はないものの、家族内での発症例が稀に報告されています。これにより、遺伝的体質が一部関与する可能性が示唆されています。

総括

多形妊娠疹の発症は、皮膚の物理的ストレス、ホルモン変動、免疫応答の異常といった複数の因子が複雑に絡み合った結果と考えられます。ただし、完全な病因の解明にはさらなる研究が必要です。

検査

多形妊娠疹(Pruritic Urticarial Papules and Plaques of Pregnancy, PEP)の診断は主に臨床所見に基づきますが、他の妊娠関連皮膚疾患との鑑別のため、いくつかの補助検査が行われます。


臨床所見の評価

  • 皮疹の観察
    • 発疹は腹部の妊娠線(ストレッチマーク)周辺に出現し、次第に大腿、臀部、上肢へ広がるのが特徴です。
    • 丘疹やプラーク(紅斑性斑状病変)として現れ、激しい瘙痒感を伴います。
    • 顔、掌、足底に発疹が現れない点は、他の疾患との重要な鑑別ポイントです。
  • 発疹の持続期間
    分娩後1~2週間以内に自然に消退する場合が多いため、経過観察が診断に役立つことがあります。

病理検査(皮膚生検)

病変部から組織を採取し、病理学的検査を行うことで診断を補助します。

  • PEPに特徴的な所見
    • 真皮上層における炎症細胞浸潤(好中球、リンパ球、マクロファージなど)。
    • 血管周囲の浮腫や炎症性変化が一般的に見られます。
    • 表皮には顕著な水疱形成や角化異常が見られず、妊娠性疱疹(Pemphigoid Gestationis)との鑑別に役立ちます。

血液検査

  • 自己抗体の有無
    妊娠性疱疹では自己抗体(BP180など)が陽性になることがありますが、PEPでは通常陰性です。
  • 炎症マーカー
    炎症反応が軽度の場合が多く、血液検査は補助的な役割にとどまります。

鑑別診断

以下の疾患との鑑別が重要です。必要に応じて追加検査を行います。

  • 妊娠性疱疹(Pemphigoid Gestationis)
    病理検査や免疫蛍光検査で自己抗体を検出します。
  • 妊娠性痒疹(Prurigo of Pregnancy)
    発疹が限局的で、分布や経過が異なる点を評価します。
  • 多形紅斑(Erythema Multiforme)
    皮膚生検により真皮深層の変化を確認することで除外可能です。

ダーモスコピー

  • 特有の皮疹パターンの観察
    ダーモスコピーは視覚的観察により診断を補助しますが、限定的な役割にとどまります。

分娩後の経過観察

  • 自然軽快の確認
    分娩後に症状が自然軽快することが診断の重要な確認ポイントとなります。他の疾患では分娩後も症状が持続する場合があります。

診断フローの例

  1. 臨床所見(皮疹の形状、分布、瘙痒感)の評価。
  2. 必要に応じて皮膚生検を実施し、病理組織学的所見を確認。
  3. 血液検査や免疫学的検査で妊娠性疱疹などの鑑別を行う。
  4. 分娩後の経過観察で症状が自然軽快するかを確認。

総括

PEPの診断は主に臨床所見に基づきますが、病理検査や血液検査を適切に組み合わせることで、正確な鑑別診断が可能です。


治療

多形妊娠疹(Pruritic Urticarial Papules and Plaques of Pregnancy, PEP)の治療は、母体の症状緩和を主な目的とし、胎児への安全性を考慮して行います。以下に治療方法を詳述します。


基本方針

  • 自然経過
    PEPは通常、分娩後1~2週間以内に自然消退する良性疾患です。そのため、治療の中心は症状緩和にあります。
  • 母体優先の治療
    胎児への影響はほとんどないため、母体の快適さを優先した治療が可能です。

薬物療法

局所治療

  • ステロイド外用薬
    中等度から強力なステロイド外用薬を使用し、炎症を抑えて瘙痒を軽減します。胎児へのリスクが低い範囲で慎重に使用されます。
  • 保湿剤
    乾燥肌が瘙痒を悪化させるため、保湿剤を併用して肌のバリア機能を維持することが推奨されます。

全身治療

  • 抗ヒスタミン薬
    瘙痒を抑えるため、第一世代または第二世代の抗ヒスタミン薬が処方されます。
  • 経口ステロイド
    症状が重度の場合、短期間の経口ステロイド療法が検討されます。ただし、分娩前の使用は胎児への影響を考慮し慎重に行います。

非薬物療法

  • 衣服の調整
    締め付けの少ない柔らかい衣服を選び、摩擦や刺激を減らします。
  • 冷却療法
    クールな湿布や冷却ジェルを使用し、炎症や瘙痒を和らげます。

予防と管理

  • 生活習慣の見直し
    妊娠後期における過剰な体重増加や皮膚の乾燥を防ぐことで、発症リスクを軽減できる可能性があります。
  • 定期的な皮膚ケア
    保湿剤や適切なスキンケア製品を使用し、皮膚のバリア機能を維持します。

分娩後の経過観察

  • 自然消退
    PEPは分娩後に自然に消退するため、軽症の場合は積極的な治療が不要なこともあります。
  • 持続症状への対応
    分娩後も瘙痒が持続する場合は、外用ステロイドや抗ヒスタミン薬の継続使用を検討します。

治療のポイント

  • 母体と胎児の安全性を最優先に考慮します。
  • 必要以上の薬物使用を避け、局所療法を中心に行うことが一般的です。

総括

多形妊娠疹の治療は、適切な薬物療法と生活指導を組み合わせることで、母体の快適さを確保しつつ、安全に管理することが可能です。症状が重い場合でも、短期間の治療により大きな改善が期待されます。

この記事を書いた人
Dr.Yale

医学部卒業後、皮膚科学の奥深さと魅力に惹かれ、皮膚科医としての道を歩み始めました。臨床での豊富な経験を通じて、commonな疾患から美容皮膚科まで幅広く対応し、多くの患者様のサポートをしてきました。
患者様一人ひとりに寄り添った診療を心がけています。

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皮膚そう痒症
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