蕁麻疹様血管炎は、真皮浅層の小血管に生じる白血球破砕性血管炎を特徴とし、24時間以上続く皮疹や紫斑、色素沈着を伴うことが多い疾患です。低補体血症性と正補体血症性の二つの病型に大別され、抗C1q抗体の存在や自己免疫疾患との関連が示唆されるケースもあります。診断にあたっては皮膚生検などの病理検査に加え、補体価や抗C1q抗体などの血液検査を行い、合併症の評価も欠かせません。治療は症状の重症度や合併症の有無に応じて、抗ヒスタミン薬やステロイド、場合によっては免疫抑制薬の使用が検討されます。
本記事では、本疾患の特徴から原因、診断方法、治療法まで詳しく解説します。
疾患の特徴
蕁麻疹様血管炎は、真皮浅層の小血管(細静脈)に発生する白血球破砕性血管炎の一型であり、一般的な蕁麻疹とは異なる特徴を持つ疾患です。典型的な蕁麻疹では、皮疹が比較的短時間(通常24時間以内)で消失しますが、蕁麻疹様血管炎の場合、皮疹が24時間以上持続する点が大きな特徴となります。また、皮疹が消退する際に紫斑や色素沈着を残す傾向があることも特徴の一つです。
蕁麻疹様血管炎による皮疹は、皮膚表面からわずかに盛り上がった膨疹として現れますが、痛みや熱感を伴う場合が多く、通常の蕁麻疹とは異なる感覚を引き起こします。症状が長時間持続しやすく、治りかけの部位に茶色い色素沈着が残ることもあるため、外見だけでは蕁麻疹との鑑別が難しい場合があります。しかし、この長時間持続する症状と色素沈着は、診断の重要な手がかりとなります。
蕁麻疹様血管炎は、以下の二つの病型に大別されます。
低補体血症性蕁麻疹様血管炎(Hypocomplementemic Urticarial Vasculitis: HUV)
血清補体価が基準値を下回り、抗C1q抗体の存在による免疫複合体の形成や補体経路の異常活性化が関与していると考えられます。この型では自己免疫疾患との関連が指摘されることが多く、関節痛や腎障害などの全身症状を伴うケースが特徴的です。
正補体血症性蕁麻疹様血管炎
血清補体価がほぼ正常範囲内に保たれる病型です。低補体血症性と比べると症状は軽度で、全身性の合併症が少ない傾向にありますが、皮疹の長期持続や紫斑といった症状は共通しています。
このように、蕁麻疹様血管炎は外見だけでは通常の蕁麻疹と紛らわしい場合がありますが、症状の持続時間や皮疹消退後の紫斑・色素沈着といった特徴が診断の鍵となります。特に低補体血症性蕁麻疹様血管炎では、自己免疫機序による合併症が見られることがあるため、血管炎としての観点から早期に疑いを持ち、適切な検査とフォローアップを行うことが重要です。
原因と病態
蕁麻疹様血管炎の主な原因は、免疫複合体による血管壁の炎症であると考えられています。具体的には、抗体と抗原が結合した免疫複合体が小血管の壁に沈着し、補体などの免疫分子を活性化させることで白血球破砕性血管炎が引き起こされます。この過程で血管内皮細胞が障害を受け、血管透過性が亢進するとともに、周囲組織への炎症細胞の浸潤を招きます。
蕁麻疹様血管炎は、血清補体価に基づいて大きく「低補体血症性(Hypocomplementemic Urticarial Vasculitis)」と「正補体血症性」に分類されます。
- 低補体血症性の場合、抗C1q抗体などの自己抗体が免疫複合体を形成し、補体経路を過剰に活性化する仕組みが想定されています。
- 一方、正補体血症性では補体価は正常範囲内にあるものの、類似の血管炎病態が生じます。
これらのプロセスにより、白血球の浸潤や破砕像といった血管炎特有の所見が現れ、皮疹が長期間にわたって持続する原因となります。
特に低補体血症性のタイプでは、全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患との関連が指摘されています。そのため、慢性的あるいは再発性に炎症反応が続きやすく、血管炎特有の症状である関節痛や腎機能障害などを引き起こすケースも少なくありません。
検査
蕁麻疹様血管炎が疑われる場合、まずは皮疹の持続時間や紫斑・色素沈着などの臨床所見を確認しますが、確定診断には血液検査や皮膚生検が必要です。以下に主な検査項目とポイントを示します。
血液検査(補体価・自己抗体など)
- 補体価(C3、C4、CH50など)の測定
補体価の測定は、低補体血症性か正補体血症性かを分類するために必須です。低補体血症性の場合、特にC1q活性の低下や抗C1q抗体の存在が注目されます。これにより自己免疫疾患との関連が示唆されることがあります。 - 自己抗体(抗C1q抗体、抗核抗体など)の測定
自己免疫機序を想定する際に重要です。特に全身性エリテマトーデス(SLE)など、自己免疫疾患との関連を評価するための指標となります。
皮膚生検(病理組織学的検査)
- 血管炎の確定診断
確定診断には皮膚生検が不可欠です。患部の皮膚組織を採取して顕微鏡下で観察すると、小血管(主に細静脈)に白血球破砕性血管炎が確認されます。 - 主な病理所見
好中球やリンパ球が血管周囲に浸潤している様子や、フィブリノイド変性が確認されることが多く、通常の蕁麻疹には見られない明らかな炎症反応が認められます。
免疫学的検査(直接蛍光抗体法など)
- 直接蛍光抗体法(DIF)
皮膚生検標本に対して直接蛍光抗体法を実施すると、免疫グロブリン(IgG、IgMなど)や補体成分(C3など)の沈着が認められる場合があります。これらの所見は、免疫複合体の形成や補体活性化を反映し、診断や病型分類の参考になります。
合併症検索(腎機能評価、胸部X線など)
- 全身評価
血管炎では腎機能障害や呼吸器合併症が生じる可能性があるため、尿検査や血液生化学検査、画像検査を組み合わせて評価します。 - 追加検査
関節痛や腹部症状がある場合、関節エコーや超音波検査などを行い、他臓器への病変がないかを確認します。
治療
蕁麻疹様血管炎の治療は、皮疹の重症度や合併症の有無、血清補体価の状態を考慮して選択されます。通常、軽症例や掻痒が中心の症例では、抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)が第一選択薬として使用されます。この薬は皮疹や掻痒を緩和する効果がありますが、蕁麻疹様血管炎に特徴的な免疫複合体形成や白血球破砕性血管炎といった病態を直接抑える作用は乏しいため、十分な効果を得られない場合もあります。
関節痛や皮疹に伴う痛みを軽減する目的で、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が使用されることもあります。ただし、重症例や進行性の病態においては、その効果が限定的であることが多く、症状の完全なコントロールは難しい場合があります。
中等症から重症例、あるいは低補体血症性蕁麻疹様血管炎で全身症状や臓器障害を伴う場合には、ステロイド(副腎皮質ステロイド薬)が治療の中心となります。ステロイドは強力な抗炎症作用を持ち、短期間で症状を改善することが可能です。しかし、再燃を繰り返す症例では長期投与が必要となることもあり、使用量や期間の管理が重要です。副作用のリスクを最小限に抑えるため、常に必要最小限の用量で投与することが推奨されます。
ステロイド単独ではコントロールが困難な症例や、副作用を回避したい場合には、免疫抑制薬(免疫調節薬)の併用が検討されます。代表的な薬剤としてアザチオプリンやシクロホスファミドなどが挙げられ、特に低補体血症性蕁麻疹様血管炎で自己免疫疾患の合併が疑われる場合に使用されることがあります。ただし、これらの薬剤は免疫抑制作用を持つため、感染症のリスクやその他の副作用に注意する必要があります。
さらに近年では、生物学的製剤が一部の難治性症例で使用されることが報告されています。抗IL-1抗体や抗IL-6受容体抗体などが代表的であり、従来の治療で効果が不十分な場合に新たな選択肢となる可能性があります。ただし、これらの治療法についてはまだ十分なエビデンスが確立されていないため、慎重な判断が求められます。
治療と並行して支持療法や生活指導も重要です。掻痒や疼痛が悪化しやすい状況(過度な発汗や摩擦など)を避けるための指導を行い、特に低補体血症性タイプでは腎障害や関節症状を含む全身的な管理が欠かせません。血液検査や尿検査を定期的に行い、患者の全身状態を把握しながら治療を進めることが必要です。
蕁麻疹様血管炎の治療は、患者ごとの病態や重症度に応じて柔軟に対応することが求められます。特に低補体血症性タイプでは、自己免疫疾患の合併を意識しながら全身的な管理を行うことが重要であり、適切な治療計画を立てることで良好な予後が期待されます。