紅斑性天疱瘡とは?原因、症状から治療法まで徹底解説

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紅斑性天疱瘡(Pemphigus Erythematosus, PE)は、自己免疫性水疱性疾患の一種で、主に顔面や頭皮などの脂漏部位に発症し、日光曝露によって悪化することがあります。その病態は、デスモグレイン1に対する自己抗体が表皮細胞間接着を破壊することで生じ、全身性エリテマトーデス(SLE)に類似した免疫学的特徴を持つ点が特徴です。診断には臨床的観察に加え、皮膚生検や血清学的検査、蛍光抗体直接法(DIF)が重要です。治療は、ステロイド外用薬や免疫抑制剤を中心に、重症例ではリツキシマブなどの生物学的製剤を用いることが推奨されます。

本記事では、本疾患の特徴から原因、診断方法、治療法まで詳しく解説します。

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疾患の特徴

紅斑性天疱瘡(Pemphigus Erythematosus, PE)は、自己免疫性水疱性疾患の一つであり、主に皮膚に限局して症状が現れる稀な疾患です。この疾患は、落葉状天疱瘡(Pemphigus Foliaceus, PF)と全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus, SLE)の臨床的および免疫学的特徴を併せ持つ点が特異とされています。


皮膚症状

紅斑性天疱瘡の主な症状は、顔面やその他の脂漏部位に現れる弛緩性水疱や紅斑です。

  • 好発部位:
    鼻、頬骨部、額、頭皮などの脂漏部位に発症しやすいです。胸部や背部など、露出しやすい部位にも病変が現れることがあります。
  • 水疱とびらん:
    形成された弛緩性水疱は容易に破れてびらんを生じます。これにより痛みが生じることが多く、放置すると二次感染のリスクが高まります。
  • 紅斑:
    蝶形紅斑や丘疹紅斑といったSLEに類似する紅斑が見られることが特徴です。特に光線曝露後に症状が悪化する光線過敏性がよく認められます。
  • スケールや痂皮:
    慢性化すると剥離性スケールや痂皮が形成され、見た目の変化が強調されます。

疾患の経過

紅斑性天疱瘡は一般的に慢性で比較的軽症の経過をたどりますが、適切な治療が行われない場合、症状が全身に波及することがあります。病変は進行する可能性があるため、早期診断と治療が重要です。


他の天疱瘡亜型との違い

  • 落葉状天疱瘡との違い:
    落葉状天疱瘡よりも紅斑が顕著で、SLE様の皮膚病変を伴います。免疫学的特徴においても補体成分(C3)の沈着が目立つことがあります。
  • 尋常性天疱瘡との違い:
    尋常性天疱瘡が粘膜病変を主体とするのに対し、紅斑性天疱瘡は皮膚症状が主体です。

疫学

紅斑性天疱瘡は非常に稀な疾患であり、落葉状天疱瘡や尋常性天疱瘡と比べて発症頻度は低いとされています。

  • 発症年齢:
    中高年層に多い傾向がありますが、若年層や高齢者でも発症が見られることがあります。
  • 性差:
    女性の発症例がやや多いとされていますが、大きな性差は認められていません。

鑑別疾患

以下の疾患との鑑別が必要です:

  • 落葉状天疱瘡: 病変の分布や免疫学的検査所見が異なる。
  • 全身性エリテマトーデス(SLE): ANAやdsDNA抗体検査を含む免疫学的評価が必要。
  • 多形滲出性紅斑: 発症の原因や病変の形態が異なる。

原因と病態

紅斑性天疱瘡(Pemphigus Erythematosus, PE)は、自己免疫反応によって引き起こされる水疱性疾患です。この疾患は、落葉状天疱瘡(Pemphigus Foliaceus, PF)と全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus, SLE)の免疫学的特徴を併せ持ち、複雑な病態を示します。


原因

自己抗体の産生
紅斑性天疱瘡では、落葉状天疱瘡と共通してデスモグレイン1(Dsg1)に対する自己抗体が産生されます。デスモグレイン1は、表皮細胞間の接着を維持するデスモソームタンパク質であり、この抗体が攻撃することで細胞間接着が破壊されます。これが弛緩性水疱の形成につながります。

さらに、一部の患者では抗核抗体(ANA)や抗SSA/Ro抗体が陽性を示し、全身性エリテマトーデス(SLE)との免疫学的関連が示唆されます。このように、複数の自己抗体が関与することが本疾患の特徴です。

環境要因と遺伝的素因
日光曝露は紅斑性天疱瘡の症状を悪化させる主要な環境要因です。紫外線は免疫応答を活性化し、表皮細胞の損傷を助長します。また、HLA遺伝子型の特定の多型が、本疾患の発症リスクと関連する可能性があります。


病態

表皮細胞間接着の破壊
紅斑性天疱瘡の主要な病態は、自己抗体がDsg1に結合し、表皮細胞間の接着が阻害されることにあります。この結果、アカントーシス(棘融解)と呼ばれる細胞間の分離が生じ、弛緩性の水疱が形成されます。この機序は落葉状天疱瘡における病態と共通しています。

免疫複合体の沈着
紅斑性狼瘡との共通点として、免疫複合体が表皮基底膜部や真皮乳頭部に沈着することがあります。この沈着により、紅斑や光線過敏性といったSLEに似た症状が現れます。この現象は、紅斑性天疱瘡がSLEの一形態としての側面を持つことを示唆しています。


免疫学的特徴

蛍光抗体直接法(DIF)
DIF検査では、表皮細胞間に線状のIgGやC3の沈着が観察されます。この所見は落葉状天疱瘡と類似していますが、真皮乳頭部にも沈着が見られる場合はSLEに関連する免疫反応を反映している可能性があります。

蛍光抗体間接法(IIF)
血清中にはDsg1に対する自己抗体が高値で検出されます。これにより、落葉状天疱瘡との鑑別や疾患活動性の評価が可能です。


病態のユニークさ

紅斑性天疱瘡は、落葉状天疱瘡や全身性エリテマトーデスと症状や免疫学的特徴を共有しながらも、それらの疾患と完全には一致しない独自の病態を示します。比較的軽症で慢性的な経過をたどることが多い一方、適切な治療が行われない場合は全身性の症状を引き起こすリスクがあります。このため、天疱瘡の一亜型としてだけでなく、重複症候群としての側面も考慮した診断と治療が必要です。

検査

紅斑性天疱瘡(Pemphigus Erythematosus, PE)の診断では、臨床症状の観察と、特徴的な免疫学的所見を確認するための検査が重要です。この疾患は、落葉状天疱瘡(PF)や全身性エリテマトーデス(SLE)の特徴を併せ持つため、それらとの鑑別が必要です。以下に、診断に使用される主な検査手法を示します。


臨床的評価

紅斑性天疱瘡の初期診断では、皮膚症状の観察が不可欠です。

  • 皮膚症状の観察
    顔面や頭皮など脂漏部位に現れる弛緩性水疱、びらん、紅斑を確認します。また、光線曝露後に症状が悪化する光線過敏性の有無を評価します。
  • ニコルスキー現象
    健康に見える皮膚を軽くこすると表皮が剥がれる現象(ニコルスキー現象)が陽性となる場合があります。

組織学的検査

病変部の皮膚生検は、紅斑性天疱瘡の確定診断において重要です。

  • 病理組織検査
    表皮細胞間の剥離(アカントーシス)を認めます。これは、落葉状天疱瘡と共通する特徴であり、表皮顆粒層直下に変性が集中します。
  • 免疫病理学的検査
    表皮細胞間にIgGやC3が沈着する「魚網状」のパターンが典型的です。

血清学的検査

血清中の自己抗体の測定は、紅斑性天疱瘡の病態を明確にするために行われます。

  • 抗デスモグレイン抗体(Dsg1)測定
    ELISA法を用いてDsg1に対する自己抗体を測定します。PEでは抗Dsg1抗体が高値を示します。
  • 抗核抗体(ANA)検査
    一部の患者ではANAが陽性となります。特に抗SSA/Ro抗体や抗SSB/La抗体が検出される場合、全身性エリテマトーデスとの関連が示唆されます。

蛍光抗体直接法(Direct Immunofluorescence, DIF)

DIF検査は、紅斑性天疱瘡の診断における最も重要な手法です。

  • 表皮細胞間の沈着
    IgGやC3が表皮細胞間に線状に沈着している様子が観察されます。これは落葉状天疱瘡と共通の所見です。
  • 真皮乳頭部の沈着
    一部の症例では、SLE様の真皮乳頭部沈着が見られる場合があります。

蛍光抗体間接法(Indirect Immunofluorescence, IIF)

血清中の自己抗体を検出する検査です。

  • 方法
    清中の抗体が基底膜や表皮細胞間に結合する様子を観察します。

鑑別診断のための検査

紅斑性天疱瘡は、以下の疾患と症状が類似するため、追加検査を行うことがあります。

  • 落葉状天疱瘡(PF)
    DIFでの所見や抗Dsg1抗体の測定値を比較し、PEとの違いを明確にします。
  • 全身性エリテマトーデス(SLE)
    ANA検査や補体価の測定により、SLE特有の全身性症状の有無を評価します。
  • 尋常性天疱瘡(PV)
    抗Dsg3抗体の有無や粘膜病変の有無を確認し、PEと鑑別します。

診断フロー

  1. 臨床的評価
    皮膚症状の分布と特徴を観察。
  2. 皮膚生検とDIF
    表皮細胞間におけるIgGとC3の沈着を確認。
  3. 血清学的検査
    抗Dsg1抗体の測定と、ANAの有無を確認。
  4. 鑑別診断
    落葉状天疱瘡やSLEとの関連性を評価。

これらの検査結果を総合して紅斑性天疱瘡の診断が確定します。診断の後、適切な治療法を選択し、症状のコントロールを目指します。

治療

紅斑性天疱瘡(Pemphigus Erythematosus, PE)の治療は、症状の重症度や広がりに応じて選択されます。治療の目標は、炎症を抑え症状を軽減すること、再発を防ぎ疾患を長期的にコントロールすることにあります。以下に、主要な治療法とその特性を示します。


局所治療

軽度で限局的な場合、局所治療が第一選択となります。

ステロイド外用薬

  • ステロイド軟膏が炎症を抑えるために使用されます。脂漏部位(顔面、頭皮など)の病変に特に有効です。
  • 副作用を最小限にするため、短期間かつ適切な濃度で使用することが推奨されます。

免疫抑制外用薬

  • タクロリムス軟膏は、ステロイドの副作用を避けるための代替療法として使用されます。特に顔面などのデリケートな部位に適しています。

全身治療

症状が広範囲に及ぶ場合や、局所治療で効果が得られない場合には、全身治療が必要です。

ステロイド内服

  • プレドニゾロンが治療の中心となります。
  • 初期には高用量(例:0.5~1.0mg/kg/日)で開始し、症状の改善に応じて徐々に減量します。
  • 長期使用による副作用(高血糖、骨粗鬆症など)を避けるため、慎重なモニタリングが必要です。

免疫抑制剤

  • ステロイド抵抗性症例や副作用軽減のために併用されます。主な薬剤は以下の通りです:
    • アザチオプリン:免疫応答を抑制し、抗体産生を減少させます。
    • ミコフェノール酸モフェチル:ステロイド抵抗性症例に有効性が示されています。
    • シクロスポリン:T細胞の活性化を抑制します。

生物学的製剤

  • リツキシマブ(抗CD20抗体):B細胞を標的に自己抗体の産生を抑制します。重症例やステロイド抵抗性例に使用され、近年の研究で高い有効性が報告されています。
  • 他の生物学的製剤(抗TNF-α抗体など)も研究段階で使用が検討されています。

抗マラリア薬

  • ヒドロキシクロロキンは、SLEで使用される薬剤で、光線過敏性の軽減や皮膚病変の改善に有効とされています。

補助療法

感染予防

  • 水疱やびらんは二次感染のリスクが高いため、抗菌薬の使用や適切なスキンケアが必要です。

日光防御

  • 紫外線による症状悪化を防ぐため、日焼け止め(SPF30以上)や遮光衣の使用が推奨されます。

栄養サポート

  • 広範囲のびらんがある場合、タンパク質やビタミン補給を含む栄養管理が求められます。

治療経過の管理

治療開始後は、症状の改善状況と副作用を定期的に評価します。

  • 抗デスモグレイン抗体価(Dsg1)のモニタリング
    血清中の抗体価を測定し、疾患の活動性を客観的に評価します。
  • 再発リスクの評価
    寛解後も再発のリスクがあるため、低用量ステロイドや免疫抑制剤を用いた維持療法が行われます。

治療選択のポイント

  • 軽症例では局所治療を優先し、可能な限り全身治療を回避します。
  • 中等症以上の症例では、ステロイドと免疫抑制剤の併用が標準治療となります。
  • 重症例やステロイド抵抗性例では、リツキシマブなどの生物学的製剤を早期に適用することが推奨されます。

今後の展望

紅斑性天疱瘡は稀な疾患であり、エビデンスに基づく治療ガイドラインが限られています。今後の研究により、新しい治療法や生物学的製剤の適用が拡大し、さらに個別化された治療が期待されています。

治療計画は、患者の疾患状況と生活の質を考慮し、医師と患者の協力のもとで進められるべきです。

この記事を書いた人
Dr.Yale

医学部卒業後、皮膚科学の奥深さと魅力に惹かれ、皮膚科医としての道を歩み始めました。臨床での豊富な経験を通じて、commonな疾患から美容皮膚科まで幅広く対応し、多くの患者様のサポートをしてきました。
患者様一人ひとりに寄り添った診療を心がけています。

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水疱症
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