血管性浮腫とは?原因、症状から治療法まで徹底解説

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血管性浮腫(angioedema)は、皮膚や粘膜下組織、さらには消化管や気道に浮腫を引き起こす疾患です。遺伝性血管性浮腫(Hereditary Angioedema:HAE)と後天性血管性浮腫(Acquired Angioedema:AAE)に大別され、HAEはC1-INH(C1エステラーゼインヒビター)の異常が主な原因です。日本では、ベリナートP(C1-INH製剤)やフィラジル(ブラジキニンB2受容体拮抗薬)が急性発作の治療薬として用いられ、ラナデルマブ(抗C1sモノクローナル抗体)が発作予防の治療薬として注目されています。適切な検査と治療法の選択により、患者の生活の質を大きく向上させることが可能です。

本記事では、本疾患の特徴から原因、診断方法、治療法まで詳しく解説します。

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疾患の特徴

血管性浮腫とは、皮膚や粘膜下組織、あるいは消化管や気道などの深部組織に一過性の浮腫が発生する疾患です。この疾患は、短時間で浮腫が発生し、数時間から数日以内に自然に消失するという特徴があります。ただし、部位によっては生命に関わるリスクを伴う場合もあります。発症原因に応じて、主に遺伝性血管性浮腫後天性血管性浮腫の二つに分類されます。

主な症状

皮膚症状
顔面(特に口唇や眼瞼)や四肢の腫れが典型的で、発赤を伴わないのが特徴です。通常、痒みはありませんが、発症部位に不快感や張り感を伴うことがあります。

粘膜症状
消化管に浮腫が発生した場合、強い腹痛、吐き気、嘔吐、さらには下痢を引き起こします。このため、緊急入院を要することもあります。

気道症状
喉頭や気道に浮腫が発生すると、呼吸困難や窒息のリスクがあり、最も重篤な症状とされます。迅速な治療が必要です。

発症の特徴

突発性
症状は突然発生し、軽度の場合は自然に軽快することもあります。しかし、気道浮腫などでは急速に悪化する可能性があります。

慢性的反復性
特に遺伝性血管性浮腫では、生涯を通じて発作を繰り返すケースが多く報告されています。

非対称性
浮腫は通常、身体の片側に限定的に発生し、対称的ではないことが多いです。

疾患の分類

遺伝性血管性浮腫
遺伝性の疾患であり、家族歴が認められる場合が多く、通常は幼少期または思春期に発症します。これは、C1インヒビターの欠損または機能異常が原因となることが一般的です。

後天性血管性浮腫
成人以降に発症し、薬剤(例:ACE阻害薬)やアレルギー反応、自己免疫疾患などが原因となる場合があります。

疾患の頻度

遺伝性血管性浮腫は希少疾患とされており、推定有病率はおよそ50,000人に1人以下とされています。しかし、適切な診断が遅れることも少なくありません。後天性の場合、薬剤性の血管性浮腫が比較的多く報告されています。

社会的影響

血管性浮腫は、患者の生活の質に大きな影響を及ぼします。発作の頻度や重症度によっては、日常生活や仕事、さらには心理的健康にも悪影響を与えることがあります。特に遺伝性血管性浮腫の場合、正確な診断が得られるまでの期間が長く、不安や孤立感を抱える患者も少なくありません。

原因と病態

血管性浮腫の発症メカニズムは原因によって異なり、大きく遺伝性血管性浮腫後天性血管性浮腫の2つに分類されます。それぞれの原因と病態について詳しく解説します。

遺伝性血管性浮腫の原因と病態

遺伝性血管性浮腫は、C1インヒビターと呼ばれる補体制御タンパク質の欠損または機能低下に起因する疾患です。このタンパク質の異常は、以下のメカニズムを引き起こします。

C1インヒビターの役割

  1. 補体系の調節
    異常な補体の活性化を防ぎます。
  2. カリクレイン-キニン系の調節
    血管透過性を促進するペプチドであるブラジキニンの産生を制御します。
  3. 血液凝固および線溶系の調節
    血管内での異常な凝固や溶解を防ぎます。

病態の進展

  • C1インヒビターが欠損または機能低下することで、カリクレイン-キニン系が過剰に活性化します。
  • その結果、ブラジキニンが過剰に生成され、血管透過性が増加。これにより局所的な浮腫が発生します。
  • この浮腫は特に気道や消化管などの深部組織で顕著に現れます。

遺伝的要因

  • 遺伝形式は常染色体優性遺伝です。
  • C1インヒビター遺伝子(SERPING1)の変異が主な原因であり、患者の家族歴が診断の手掛かりとなります。

後天性血管性浮腫の原因と病態

後天性血管性浮腫は、主に成人以降に発症し、遺伝的要因に基づかない浮腫です。その原因は以下のように分類されます。

薬剤性(例:アンジオテンシン変換酵素阻害薬)

  • アンジオテンシン変換酵素阻害薬は、アンジオテンシンIIの生成を抑制する一方で、ブラジキニン分解酵素(キニナーゼII)の活性も低下させます。
  • その結果、ブラジキニンが蓄積し、浮腫を引き起こします。
  • 症状は通常、治療開始後数週間以内に現れますが、数か月後に発症するケースもあります。

自己免疫疾患や悪性腫瘍

  • 自己抗体によるC1インヒビターの中和が起こり、機能低下を引き起こします。
  • 血液悪性腫瘍(例:リンパ腫)や自己免疫疾患に関連して発症することがあります。

アレルギー反応

  • IgEを介する即時型アレルギー反応では、ヒスタミンが浮腫の主な原因となります。
  • このメカニズムは、ブラジキニンが関与する遺伝性や薬剤性の血管性浮腫とは異なります。

遺伝性と後天性の比較

特徴遺伝性血管性浮腫後天性血管性浮腫
発症年齢小児期~思春期成人以降
主な原因C1インヒビター遺伝子の変異薬剤、自己抗体、腫瘍
病態C1インヒビターの欠損または機能低下ブラジキニンの蓄積またはC1インヒビターの中和
関与する因子ブラジキニンブラジキニン、ヒスタミン

臨床的意義

  • 遺伝性の血管性浮腫では、C1インヒビターの欠損や遺伝子変異が主因であるため、遺伝子検査や補体検査が診断において重要です。
  • 一方、後天性の場合は、患者の薬剤歴や基礎疾患の有無が発症メカニズムを明らかにする鍵となります。そのため、詳細な既往歴の確認が不可欠です。

検査

血管性浮腫の診断には、病歴や臨床所見の確認に加え、適切な検査を行うことが不可欠です。特に遺伝性血管性浮腫と後天性血管性浮腫の区別、さらにはアレルギー性血管性浮腫との鑑別診断が重要です。ここでは、主な検査とその意義について解説します。

病歴と臨床所見の評価

病歴の確認

  • 発作の頻度、持続時間、発症部位(例:顔面、腹部、気道)を確認。
  • 家族歴の有無(遺伝性血管性浮腫が疑われる場合)。
  • 薬剤歴(特にアンジオテンシン変換酵素阻害薬の使用歴)。

臨床所見

  • 痒みを伴わない腫脹(アレルギー性とは異なる)。
  • 腹痛、吐き気、嘔吐がある場合は消化管浮腫を疑う。
  • 喉頭浮腫がある場合、緊急処置が必要。

血液検査

血管性浮腫の原因を特定するために最も重要な検査です。

補体検査

  • C1インヒビター活性(機能測定)
    • 遺伝性血管性浮腫では活性が低下している(<50%が診断基準)。
    • 後天性血管性浮腫でも自己抗体によるC1インヒビター活性低下が認められる場合がある。
  • C1インヒビター濃度(定量測定)
    • 遺伝性血管性浮腫タイプI:C1インヒビター濃度が低下。
    • 遺伝性血管性浮腫タイプII:C1インヒビター濃度は正常または高値だが、機能が低下。
  • 補体C4レベル
    • 遺伝性血管性浮腫では常に低下(感度が高い)。
    • 発作時でなくても低下しているためスクリーニング検査として有用。
  • C1q濃度
    • 後天性血管性浮腫ではC1q濃度が低下している場合が多い(遺伝性血管性浮腫では通常正常)。

炎症マーカー

  • 一般的に炎症反応(CRP、白血球増加)は見られないが、感染症や他疾患との鑑別に有用。

遺伝子検査

  • SERPING1遺伝子の変異解析
    遺伝性血管性浮腫の確定診断には必須の検査。特に家族歴がある場合に診断が確定される。
  • PLG遺伝子検査
    C1インヒビターが正常な遺伝性血管性浮腫の一部では、この遺伝子変異が確認されている。

薬剤誘発試験

  • アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬が使用されている場合、これらを中止し症状の改善を観察。
  • ブラジキニンが原因である薬剤性血管性浮腫が疑われる場合に有用。

画像検査

  • 超音波検査(腹部)
    消化管浮腫が疑われる場合、腸管壁の浮腫を確認可能。
  • CT/MRI検査
    消化管や気道浮腫の診断補助として有用。喉頭浮腫が疑われる場合、緊急CTで評価を行う。

検査結果のまとめと解釈

以下に、主な検査結果を表形式で整理します:

検査項目遺伝性血管性浮腫後天性血管性浮腫アレルギー性血管性浮腫
C1インヒビター濃度低下(タイプI)正常または低下正常
C1インヒビター活性低下低下正常
C4レベル低下低下正常
C1q濃度正常低下正常
IgEまたはトリプターゼ正常正常上昇

診断フローの概要

  • C4低下が認められる場合:補体検査(C1インヒビター濃度、活性、C1q)を実施。
  • C1インヒビター異常がある場合:遺伝子検査で遺伝性血管性浮腫を確定診断。
  • C1インヒビターが正常で薬剤歴がある場合:薬剤性後天性血管性浮腫を疑う。
  • IgEやトリプターゼが上昇している場合:アレルギー性血管性浮腫の可能性を考慮。

治療

日本で承認されている血管性浮腫の治療薬は、遺伝性血管性浮腫に焦点を当てたものが中心です。ここでは、日本で使用可能な治療薬を急性期治療と発作予防(短期・長期)に分けて紹介します。

急性期の治療

  • C1インヒビター製剤
    商品名:ベリナートP静注用500(Berinert)
    • 遺伝性血管性浮腫の急性発作に使用。
    • 補体制御タンパク質であるC1インヒビターを直接補充することで、ブラジキニン生成を抑制。
    • 点滴静注で投与され、症状の速やかな軽減が期待できる。
  • ブラジキニンB2受容体拮抗薬
    商品名:フィラジル皮下注30mg(Icatibant)
    • ブラジキニンの作用を阻害することで、発作時の浮腫を軽減。
    • 皮下注射で投与され、主に顔面や気道浮腫に対して迅速な効果を発揮。
  • アドレナリン(補助的治療)
    • 喉頭浮腫など生命を脅かす場合に、補助的にアドレナリン自己注射器(エピペン)を使用する場合もある。

発作予防

長期予防

  • ラナデルマブ(モノクローナル抗体製剤)
    商品名:タクザイロ(Lanadelumab)
    • 2022年に日本で承認された最新の治療薬。
    • カリクレインを阻害し、発作の頻度を大幅に減少させる。
    • 2週間または4週間ごとに皮下注射で投与。
    • 重症患者や頻回発作を有する患者に推奨される。
  • アンドロゲン誘導体
    • 日本ではアンドロゲン誘導体(例:ダナゾール)が使用可能だが、副作用の観点から慎重に用いられる。
  • C1インヒビター製剤
    商品名:ベリナートP静注用500(Berinert)
    • 長期予防としても使用可能。
    • 点滴静注による定期的な補充で発作予防を行う。

短期予防

  • C1インヒビター製剤
    • 手術や歯科治療など、発作誘発が予想される際に事前投与。
    • ベリナートPが短期予防としても用いられる。

治療薬の選択基準

  • 急性発作時:速効性を重視し、フィラジルやベリナートPが選択される。
  • 発作頻度が高い場合の長期予防:ラナデルマブが第一選択。
  • 短期的な発作リスクがある場合:事前にC1インヒビター製剤を使用。

日本での治療の特徴

日本では、治療薬の選択肢が増加しており、患者ごとの症状や発作頻度に応じた個別化治療が可能です。特に、ラナデルマブの承認により、患者の生活の質が大幅に改善すると期待されています。


今後の展望

  • 新規治療薬の導入
    遺伝子治療やさらに効果的な長期予防薬が海外で研究されており、日本でも将来的な適用が期待されています。
  • 早期診断体制の構築
    治療の選択肢が広がる一方で、適切な診断に基づく早期治療が課題です。
この記事を書いた人
Dr.Yale

医学部卒業後、皮膚科学の奥深さと魅力に惹かれ、皮膚科医としての道を歩み始めました。臨床での豊富な経験を通じて、commonな疾患から美容皮膚科まで幅広く対応し、多くの患者様のサポートをしてきました。
患者様一人ひとりに寄り添った診療を心がけています。

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皮膚そう痒症
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