肢端紅痛症(Erythromelalgia)は、四肢末端の発赤や強い灼熱痛、皮膚温上昇を特徴とする希少疾患です。運動や温熱刺激によって症状が増悪し、冷却によって軽快する場合が多く、原発性(遺伝的要因など)と続発性(血液疾患などに付随する)に大別されます。診断にあたっては、症状の経過や発赤・熱感の観察に加え、基礎疾患を含めた各種検査(血液検査、サーモグラフィなど)が重要です。治療は、症状緩和のための日常生活の工夫(冷却、生活習慣の調整など)や、薬物療法(抗血小板薬、神経障害性疼痛治療薬、ナトリウムチャネル遮断薬など)が中心となります。難治例では交感神経ブロックや脊髄刺激療法などの介入治療が検討される場合もあります。続発性の場合は基礎疾患の管理が症状改善の鍵となります。
本記事では、本疾患の特徴から原因、診断方法、治療法まで詳しく解説します。
疾患の特徴
肢端紅痛症(Erythromelalgia)は、四肢末端(手指、足指、足底など)に突然生じる灼熱感を伴う強い痛みと、皮膚の発赤・体温の上昇を特徴とする疾患です。痛みや発赤は運動や温熱刺激で増強される一方、冷却や安静により軽減される傾向があります。患者は灼熱感を和らげるため、アイスパックを使用して冷却を試みることもあります。
稀な疾患
肢端紅痛症は稀少疾患であり、医療現場でも診断に至るまで時間がかかるケースが少なくありません。そのため、患者は症状のコントロールが難しい状況に陥ることがあります。
好発部位と症状の特徴
- 好発部位:手指や足指などの四肢末端が最も多いですが、耳や鼻先に症状が現れる場合もあります。
- 発作的な症状:症状は発作的に激しく現れる「発作型」の経過をたどることが特徴で、発作が収まると症状が軽快します。
- 皮膚の所見:皮膚が赤くなり、局所の体温が上昇するため、触れると温かさを感じることが多いです。
原発性と続発性
肢端紅痛症は、原因に基づき「原発性」と「続発性」に分けられます:
- 原発性:基礎疾患が特定されないタイプで、四肢末端の症状のみを示します。
- 続発性:真性多血症や本態性血小板血症などの血液疾患に関連して発症するタイプであり、基礎疾患の管理が重要です。
生活への影響
肢端紅痛症の痛みや灼熱感は非常に強く、患者の生活に大きな影響を及ぼします。特に気温が高い季節や運動時に症状が悪化しやすく、以下のような工夫が必要となることがあります:
- 厚着を避け、薄着で過ごす。
- 長時間の歩行を控える。
- 携帯型クーリング用品を持ち歩く。
原因と病態
肢端紅痛症(Erythromelalgia)は、明確な原因や病態が十分に解明されていない疾患です。しかし、研究や報告例から、遺伝的素因や血管調節異常、神経系の関与など、いくつかの要因が複雑に絡み合って発症することが示唆されています。
原発性肢端紅痛症の原因・病態
- 遺伝的素因
原発性肢端紅痛症の一部では、ナトリウムチャネルをコードする遺伝子(SCN9Aなど)の変異が確認されています。この遺伝的変異により末梢神経の興奮が亢進し、軽い刺激でも過剰な痛みや灼熱感が生じる可能性があります。 - 血管調節異常
四肢末端の血管は体温調節において重要ですが、肢端紅痛症では局所的な血管拡張や収縮の制御が乱れています。微小循環の異常や血管内皮の機能障害が皮膚表面の血流を増加させ、発赤や灼熱感を引き起こします。 - 神経系の関与
自律神経(交感神経・副交感神経)による血管支配や痛みの伝達に異常がある場合、末梢血流制御が乱れ、軽度の刺激でも強い灼熱痛を感じるようになります。痛覚受容体の感作(過敏化)が発症に重要な役割を果たすと考えられています。
続発性肢端紅痛症の原因・病態
- 血液疾患に伴うもの
続発性肢端紅痛症では、真性多血症や本態性血小板血症などの血液疾患が基礎疾患として認められる場合があります。これらの疾患では血液の粘度が上昇し、血流が阻害されることで末梢の血管炎や疼痛が誘発されます。 - その他の基礎疾患
リウマチ性疾患、末梢神経障害、糖尿病などの代謝性疾患も続発性肢端紅痛症の原因となることがあります。これらの基礎疾患に伴う炎症や代謝異常が血管や神経系に影響を与え、特徴的な症状を引き起こします。
病態のキーポイント
- 末梢血管拡張
局所の血管拡張が原因で温度上昇と発赤が起こります。 - 痛覚受容体の感作
遺伝子変異などにより末梢神経が過敏化し、灼熱痛が生じやすくなります。 - 基礎疾患の影響
続発性肢端紅痛症では、基礎疾患による全身的な病態変化が末端の血管や神経に影響を及ぼし、症状を悪化させる可能性があります
検査
肢端紅痛症(Erythromelalgia)の診断は、主に臨床症状(灼熱痛・発赤・皮膚温上昇など)と病歴から行われます。一方で、他の疾患との鑑別や続発性肢端紅痛症の基礎疾患を特定するために、以下の検査が必要となる場合があります。
身体所見・視診・触診
- 皮膚の変化:発作時には、皮膚の発赤や温度上昇が明らかになることがあります。皮膚を触診すると、ほかの部位に比べて著しく温度が高いことが確認される場合があります。
- 発作誘発・緩和因子の確認:問診やテストで、温熱刺激や運動による症状悪化、冷却による症状緩和を確認することが診断の手がかりになります。
画像検査・血管評価
- サーモグラフィ:発赤部位の皮膚温上昇を可視化する検査で、左右差や温度変化のパターンを把握するのに役立ちます。
- ドップラー検査やカラードプラ超音波:末梢血管の血流量や血流速度を評価し、血管拡張や血流障害の程度を確認します。
血液検査
- 一般血液検査:白血球・赤血球・血小板数を評価します。続発性肢端紅痛症が真性多血症や本態性血小板血症に関連する場合、赤血球数や血小板数の増加が見られることがあります。
- 凝固・炎症マーカー:CRPや赤沈(ESR)を測定し、免疫疾患や炎症性疾患の可能性を評価します。また、凝固系の異常がないかも確認します。
遺伝子検査(原発性肢端紅痛症の一部)
- ナトリウムチャネル遺伝子(SCN9A)の変異解析:家族性の発症例や、基礎疾患が見つからない場合には、遺伝的背景を評価するため遺伝子検査が行われます。
鑑別診断のための検査
- リウマチや自己免疫疾患の検査:抗核抗体(ANA)などを調べ、膠原病やリウマチ性疾患の可能性を除外します。
- 末梢神経障害の評価:神経伝導速度検査(NCS)や筋電図検査(EMG)を行い、末梢神経障害や小繊維ニューロパチー(SFN)の有無を確認します。これにより、神経性疼痛疾患との鑑別が可能です。
まとめ
肢端紅痛症の診断には、特徴的な臨床所見の確認に加え、他疾患との鑑別が不可欠です。特に続発性肢端紅痛症の場合は、基礎疾患が特定されるかどうかが治療方針に大きな影響を与えます。そのため、血液検査や画像検査などを組み合わせた包括的な評価が重要です。
治療
肢端紅痛症(Erythromelalgia)の治療は、「症状の緩和」と「基礎疾患の管理」の両面でアプローチします。治療法の効果には個人差があるため、患者ごとに最適な方法を見つけることが重要です。
日常生活での対応
- 冷却・保温環境の調整
発作は温熱刺激や運動によって悪化するため、冷房や冷却ジェルパックを使用して体温を適度に下げることが役立ちます。ただし、過度な冷却は凍傷などのリスクを伴うため、自己管理の範囲で行うことが重要です。 - 運動・生活習慣の調整
発作を予防するために適度な運動を心がけ、無理をせずこまめに休憩を取るなど、生活習慣を調整することが症状の軽減につながる場合があります。
薬物療法
- 抗血小板薬・血小板抑制薬
血液疾患が背景にある場合や血小板機能亢進が疑われる場合には、アスピリンなどが使用されます。続発性肢端紅痛症では、真性多血症や本態性血小板血症の治療(瀉血や血小板減少薬の使用)を併行することで症状の改善が期待できます。 - カルシウム拮抗薬・β遮断薬
血管拡張や収縮の異常を調整し、末梢血管の血流異常を抑える目的で使用される場合があります。 - ナトリウムチャネル遮断薬
原発性肢端紅痛症で遺伝子変異が認められる場合には、ナトリウムチャネルの機能を抑制する薬剤(例:メキシレチン、カルバマゼピン、ラモトリギンなど)が有効とされることがあります。 - 疼痛緩和を目的とした薬剤
神経障害性疼痛治療薬(例:ガバペンチン、プレガバリン)が一部の患者で効果を示します。また、抗うつ薬(SSRIやSNRI)が鎮痛補助薬として使用されることもあります。
神経ブロックなどの介入治療
- 交感神経節ブロック
交感神経の活動を遮断し、末梢血管の過剰な拡張を抑えることで疼痛を軽減します。薬物療法で効果が不十分な重症例に適応されることがあります。 - 脊髄刺激療法(Spinal Cord Stimulation)
電気刺激で疼痛伝達を抑制する方法で、痛みが極めて強い場合に検討されます。この治療は専門施設でのみ実施され、保険適用や専門医の判断が必要です。
基礎疾患の管理(続発性の場合)
- 血液疾患の管理
真性多血症や本態性血小板血症の場合、瀉血やヒドロキシカルバミド、アナグレライドなどの薬剤が使用されます。基礎疾患を適切にコントロールすることで、肢端紅痛症の症状も改善することが期待されます。 - その他の疾患の治療
リウマチ性疾患や内分泌異常などが原因の場合、それぞれの専門治療(抗リウマチ薬、ホルモン補充療法など)を行うことが必要です。