全身肥満細胞腫症とは?原因、症状から治療法まで徹底解説

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全身性肥満細胞症(Systemic Mastocytosis, SM)は、肥満細胞が異常に増殖し、全身の臓器に蓄積する希少疾患です。KIT遺伝子の変異が主要な原因とされ、これが肥満細胞の異常活性化を引き起こします。診断には血液検査や骨髄生検、画像検査などが用いられ、WHOの診断基準に基づいて確定されます。治療では症状の管理に加え、進行型には分子標的治療や化学療法が適用されるほか、造血幹細胞移植が選択される場合もあります。

本記事では、本疾患の特徴から原因、診断方法、治療法まで詳しく解説します。

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全身性肥満細胞症(Systemic Mastocytosis, SM)の特徴

全身性肥満細胞症(Systemic Mastocytosis, SM)は、肥満細胞が異常に増殖し、全身のさまざまな臓器や組織に蓄積する稀な疾患です。症状や進行度に応じて多様な臨床像を示し、患者の生活の質に大きな影響を与える可能性があります。

主な症状

肥満細胞が分泌する化学伝達物質(ヒスタミンやトリプターゼなど)の影響で、多様な症状が引き起こされます。

  • 皮膚症状
    痒みや色素性蕁麻疹(皮膚の隆起や発疹)、鱗屑を伴う皮膚病変が見られることが一般的です。
  • 全身症状
    慢性的な疲労、発熱、体重減少が挙げられ、重症例ではアナフィラキシー(血圧低下や意識障害を伴う急性反応)も発生します。
  • 消化器症状
    腹痛、下痢、嘔吐などの症状や、胃酸分泌過多による消化不良がみられます。
  • 骨症状
    骨の痛み、骨粗鬆症、病的骨折が生じる場合があります。

疾患の分類

全身性肥満細胞症は、症状の重症度や進行度に応じて以下に分類されます。

  1. 骨髄型
    骨髄での肥満細胞の増殖が主体で、予後は比較的良好です。
  2. 進行型
    肝臓、脾臓、消化管など複数の臓器に浸潤し、臓器不全を引き起こします。
  3. 肥満細胞白血病
    最も重篤な形態で、急速な進行と高い致死率を伴います。

疫学

全身性肥満細胞症の発生率は年間100万人あたり約1人とされる非常に稀な疾患です。成人に多く発症し、特に進行型は中年以降に診断されることが多いと報告されています。

生活への影響

この疾患は慢性的な症状により患者の生活の質を低下させるほか、特定の食品や薬剤、ストレスがアナフィラキシーのトリガーとなる場合があり、日常生活でのリスク管理が重要です。また、早期診断と適切な治療が疾患進行の抑制に寄与します。

原因と病態

全身性肥満細胞症(Systemic Mastocytosis, SM)の原因と病態は、主に肥満細胞の異常増殖と活性化に起因します。この異常は、KIT遺伝子の変異を中心とする分子レベルの異常と深く関連しています。以下にそのメカニズムを詳しく説明します。

原因

肥満細胞症の主な原因は、KIT遺伝子の特定の変異です。この遺伝子は、肥満細胞の成長、分化、活性化を制御するKIT受容体型チロシンキナーゼをコードしています。

  • KIT D816V変異
    全身性肥満細胞症の約90%の患者で認められるこの変異は、KIT受容体を恒常的に活性化させます。この結果、肥満細胞が制御不能に増殖し、臓器や組織に蓄積します。
  • 他の遺伝子変異
    TET2、ASXL1、SRSF2などの遺伝子変異がKIT変異とともに存在する場合、病態が進行型や悪性型に移行するリスクが高まるとされています。

病態

肥満細胞症の病態は、肥満細胞の異常増殖と、これらの細胞が分泌する化学伝達物質の過剰産生によるものです。

肥満細胞の異常増殖

肥満細胞は、骨髄、肝臓、脾臓、消化管などに蓄積し、組織や臓器の構造を破壊します。この蓄積が進行すると、臓器の機能不全や障害が生じます。特に、骨髄浸潤は造血障害を引き起こし、貧血や血小板減少症の原因となります。

化学伝達物質の過剰分泌

肥満細胞が分泌するヒスタミン、トリプターゼ、ロイコトリエンなどの物質は、さまざまな症状を引き起こします。

  • ヒスタミン
    痒みや蕁麻疹、血管拡張による低血圧やアナフィラキシーの主因となります。
  • トリプターゼ
    臓器の損傷や炎症を助長し、さらに症状を悪化させます。
  • ロイコトリエン
    気道収縮や炎症を引き起こし、喘息様の症状を引き起こす場合があります。

臓器への影響

肥満細胞がさまざまな臓器に浸潤することで、以下のような影響が現れます。

  • 骨髄: 造血機能の低下(貧血や白血球・血小板の減少)。
  • 骨格: 骨密度の低下や骨粗鬆症、病的骨折。
  • 肝臓・脾臓: 肝脾腫や肝機能障害。
  • 消化管: 腹痛、下痢、消化不良。

病態の進行

全身性肥満細胞症は、その進行度に応じて以下のように分類されます。

  1. 限定型: 肥満細胞の増殖が主に骨髄や皮膚に限定されている。
  2. 進行型: 肝臓、脾臓、消化管などの多臓器に影響が及び、臓器不全が生じる。
  3. 肥満細胞白血病: 肥満細胞が急速に増殖し、高い致死率を伴う重篤な状態。

全身性肥満細胞症の原因と病態は、KIT遺伝子の変異を中心とする分子異常が発端となり、肥満細胞の異常な増殖や過剰な化学伝達物質の分泌が全身の多臓器に影響を及ぼすことに起因します。この病態を理解することが、診断や治療法の選択において極めて重要です。

検査

全身性肥満細胞症(Systemic Mastocytosis, SM)の診断には、肥満細胞の異常な増殖や活性化を確認するための複数の検査が必要です。これらの検査は、疾患の確定診断、進行度の評価、治療計画の立案に重要な役割を果たします。

診断基準の確認

全身性肥満細胞症は、世界保健機関(WHO)の診断基準に基づき診断されます。具体的には以下の基準を満たす必要があります。

  • 主要基準: 骨髄や他の組織において15個以上の肥満細胞が密集する病理所見が認められること。
  • 副基準(以下のうち2つ以上):
    • KIT D816V変異の検出。
    • 異常形態の肥満細胞(紡錘形など)。
    • トリプターゼ血清濃度の上昇(20 ng/mL以上)。
    • 肥満細胞の異常な免疫表現型(CD2またはCD25の発現)。

検査の種類

血液検査

血液検査は、肥満細胞症の初期評価として行われ、疾患の診断や進行度の確認に役立ちます。

  • トリプターゼ測定: 肥満細胞の活性化を反映する主要なマーカーであり、20 ng/mL以上の上昇が診断の手がかりとなります。
  • 完全血球計算(CBC): 貧血、血小板減少症、白血球増加などを確認します。
  • KIT遺伝子変異検査: 骨髄または末梢血を用いてKIT D816V変異を特定します。

骨髄検査

骨髄吸引や生検は、肥満細胞の異常な増殖を確認するために行われます。

  • 肥満細胞の密集や形態異常(紡錘形)を評価します。
  • KIT D816V変異の存在を確定するための検査が行われます。

画像検査

肥満細胞症が臓器に与える影響を評価するため、画像検査が用いられます。

  • 超音波検査: 肝臓や脾臓の腫大を確認します。
  • CT/MRI: 臓器浸潤や骨の異常を詳細に評価します。
  • 骨密度測定(DXA): 骨粗鬆症や骨減少症を調べるために使用されます。

組織生検

特定の症状や臓器障害がある場合には、皮膚や肝臓、消化管などから組織を採取して病理学的検査を行います。

  • 皮膚生検: 皮膚症状がある場合、肥満細胞の蓄積を確認します。
  • 臓器生検: 肝臓や腸管などの病変を確認し、進行度を評価します。

フローサイトメトリー

骨髄や末梢血中の肥満細胞を特定し、CD2またはCD25の異常な免疫表現型を検出します。


検査プロセスの流れ

  1. 初期評価: 臨床症状(皮膚の色素性蕁麻疹、アナフィラキシーなど)と血液検査(トリプターゼ濃度)でSMの可能性を確認。
  2. 遺伝子検査: KIT D816V変異の確認。
  3. 骨髄検査: 必要に応じて肥満細胞の異常増殖を評価。
  4. 画像検査: 臓器浸潤や骨の異常を評価。

これらの検査を通じて、全身性肥満細胞症の診断を確定し、進行度や合併症のリスクを評価することが可能です。

治療

全身性肥満細胞症(Systemic Mastocytosis, SM)の治療は、疾患の進行度や患者の症状に応じて個別化されます。主な治療目標は、肥満細胞の異常増殖や活性化による症状を抑えることと、疾患の進行を防ぐことです。以下に、治療法を詳しく説明します。

症状管理

肥満細胞が放出するヒスタミンや他の化学伝達物質による症状を軽減するための治療が行われます。

  • 抗ヒスタミン薬
    • H1受容体拮抗薬: 皮膚の痒みや蕁麻疹、アナフィラキシー予防に使用。
    • H2受容体拮抗薬: 胃酸分泌過剰による消化器症状(腹痛、下痢など)を軽減。
  • クロモグリク酸
    • 肥満細胞からの化学伝達物質の放出を抑制します。特に消化器症状や全身症状に有効です。
  • 抗ロイコトリエン薬
    • ロイコトリエンによる炎症や気道収縮を軽減します。
  • アドレナリン自己注射薬
    • アナフィラキシーのリスクが高い患者には、緊急用に処方されます。

進行型および悪性型の治療

進行型SMや肥満細胞白血病など、重症度の高い患者に対しては以下の治療法が選択されます。

  • 分子標的治療
    • ミドスタウリン: KIT D816V変異を持つ進行型SM患者に有効で、臓器浸潤の改善や症状の緩和が期待されます。
    • アバプロチニブ: 新しいKIT阻害薬として承認され、一部の患者で高い効果が示されています。
  • 化学療法
    • 急速に進行する肥満細胞白血病や治療抵抗性のSM患者に使用されます。シタラビンやクロラムブシルなどが選択されることがあります。
  • 造血幹細胞移植
    • 非常に進行した場合や治療抵抗性の患者に対して、治癒を目指した治療法として実施される場合があります。ただし、高リスクを伴うため慎重な適応判断が必要です。

補助療法

SMの慢性的な影響に対応するための補助的な治療も行われます。

  • 骨粗鬆症の治療
    • ビスホスホネートやデノスマブによる骨密度の維持。
    • ビタミンDとカルシウムの補充も推奨されます。
  • 心理的サポート
    • 慢性的な症状や生活制限に対する心理的支援が重要です。

新しい治療法の展望

現在、以下のような新しい治療法が開発中です。

  • 次世代KIT阻害薬
    • 従来の治療に効果がない患者に対して、新しいKIT阻害薬が期待されています。
  • 免疫療法
    • 肥満細胞を標的とした免疫療法の研究が進められています。

治療の全体的な流れ

  1. 症状が軽度の場合は、抗ヒスタミン薬や補助療法を中心に症状を管理。
  2. 進行型や悪性型が疑われる場合は、分子標的治療や化学療法を開始。
  3. 骨粗鬆症や心理的影響にも対応する包括的な治療を計画。

SMの治療は、患者ごとに異なる進行度や症状に合わせた多職種チームによる包括的なアプローチが必要です。

この記事を書いた人
Dr.Yale

医学部卒業後、皮膚科学の奥深さと魅力に惹かれ、皮膚科医としての道を歩み始めました。臨床での豊富な経験を通じて、commonな疾患から美容皮膚科まで幅広く対応し、多くの患者様のサポートをしてきました。
患者様一人ひとりに寄り添った診療を心がけています。

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良性腫瘍
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