ロサイ・ドルフマン(Rosai-Dorfman)病とは?

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ロサイ・ドルフマン病(Rosai-Dorfman Disease, RDD)は、非ランゲルハンス細胞組織球症に分類される稀な疾患で、無痛性のリンパ節腫脹や発熱、白血球増多を特徴とします。約25~40%の患者で皮膚や骨、中枢神経系などの節外病変が認められ、特定の遺伝子変異や免疫系の異常が疾患に関与していることが近年明らかになっています。診断は病理学的所見や画像検査を基に行われ、治療は自然寛解を待つ経過観察から、ステロイドや化学療法、分子標的治療、手術療法まで多岐にわたります。

本記事では、本疾患の特徴から原因、診断方法、治療法まで詳しく解説します。

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疾患の特徴

ロサイ・ドルフマン病は、非ランゲルハンス細胞組織球症に分類される稀な疾患で、主に若年成人に発症します。この疾患は、1969年にロサイとドルフマンによって初めて記載され、「大リンパ節腫脹を伴う洞組織球症」としても知られています。

主な臨床症状

  • リンパ節腫脹: 主に頸部リンパ節の無痛性腫脹が一般的ですが、腋窩や鼠径部のリンパ節が腫れる場合もあります。
  • 全身症状: 発熱、夜間の発汗、体重減少といった全身性の症状がみられることがあります。
  • 白血球増多: 血液検査で白血球数の増加が確認されることが多いです。

リンパ節以外の病変

ロサイ・ドルフマン病の患者の約25~40%では、リンパ節以外の部位に病変が認められます。

  • 皮膚: 赤みを帯びた斑や結節が現れることがあります。
  • 上気道および眼窩: 鼻づまりや視覚障害などが発生することがあります。
  • : 骨痛や病的骨折を引き起こす場合があります。
  • 中枢神経系: 非常に稀ですが、神経症状を引き起こすことがあります。

疾患の進行

ロサイ・ドルフマン病は一般的に良性疾患とされ、多くの場合、自然寛解が期待されます。ただし、臨床経過には個人差があり、重篤な症状が長期間続く場合や、重要な臓器が影響を受ける場合には、生命を脅かす可能性があります。

疾患の希少性

ロサイ・ドルフマン病は非常に稀な疾患であるため、診断が遅れることも少なくありません。そのため、この疾患に特有の臨床的特徴を早期に認識し、適切な診断を行うことが重要です。

原因と病態

ロサイ・ドルフマン病の正確な原因は完全には解明されていません。しかし、近年の研究により、特定の遺伝子変異や免疫系の異常が関与している可能性が示されています。

原因とリスク因子

遺伝的要因

  • MAP2K1遺伝子: 一部のロサイ・ドルフマン病の患者で、ミトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ1(MAP2K1)の活性化変異が確認されています。この変異は細胞増殖や分化に影響を与え、異常な組織球の蓄積を引き起こします。
  • NRAS遺伝子: 神経芽細胞腫関連RAS遺伝子(NRAS)の変異も特定されており、この変異は細胞のシグナル伝達経路を過剰に活性化することで疾患の発症に関与すると考えられています。

免疫系の異常

一部の研究では、ロサイ・ドルフマン病がウイルス感染(例えば、エプスタイン・バーウイルスやパルボウイルスB19)に対する異常な免疫応答に関連している可能性が示唆されています。ただし、これらの関連性はまだ明確には証明されていません。

環境因子

環境要因との直接的な関連性は確認されていませんが、特定の地理的または民族的グループでの発生率の偏りが観察されています。


病態生理

異常な組織球の蓄積

ロサイ・ドルフマン病の影響を受けた組織では、活性化した異常な組織球が蓄積します。これらの組織球は以下の特徴を持ちます:

  • 核が豊富で大きく、細胞質に好酸性の封入体を伴います。
  • 組織球は主にリンパ節の副洞に集中し、「リンパ洞組織球症」という特徴的な病理像を形成します。

免疫応答の過剰活性化

免疫系の過剰な活性化や不適切な炎症反応が、リンパ節や他の臓器での病変形成に寄与すると考えられています。

  • 組織球マーカー(CD68)およびS100タンパク質陽性: ロサイ・ドルフマン病の組織球はこれらのマーカーに陽性を示し、診断に役立ちます。

他の細胞の取り込み(エムペリポーシス)

ロサイ・ドルフマン病の病理所見として特異的な特徴は、リンパ球や形質細胞が組織球の細胞質内に取り込まれる現象(エムペリポーシス)です。これは診断の鍵となる場合があります。


疾患の進展

ロサイ・ドルフマン病は通常、緩徐に進行する良性疾患とされていますが、進行の仕方は個人差があります。

  • 自然寛解: 約20~40%の患者は治療を受けずに寛解します。
  • 慢性進行: 一部の患者では持続的な症状や再発がみられます。
  • 重篤な症例: 臓器機能を侵すような重篤な場合には、早期の治療が必要となります。

診断と検査

ロサイ・ドルフマン病の診断は、病理学的検査と臨床症状の評価を組み合わせて行います。この疾患は稀であり、他の疾患との鑑別が必要なため、正確な診断が重要です。


診断基準

ロサイ・ドルフマン病の診断は以下の要素に基づきます。

臨床症状

  • リンパ節腫脹: 主に無痛性の頸部リンパ節腫脹がみられます。
  • 全身性症状: 発熱、夜間の発汗、体重減少など。
  • リンパ節以外の病変: 皮膚、眼窩、骨、中枢神経系などに病変が及ぶ場合があります。

病理学的所見

病理検査は、ロサイ・ドルフマン病の診断において最も重要な手段です。

  • 特徴的な所見:
    • 他の細胞の取り込み(エムペリポーシス): リンパ球や形質細胞が組織球の細胞質内に取り込まれる現象が観察されます。
    • 大型組織球: 淡染性の細胞質と特徴的な核を持つ組織球が認められます。
  • 免疫組織化学的特徴:
    • CD68陽性: 組織球のマーカー。
    • S100タンパク質陽性: ロサイ・ドルフマン病に特徴的な所見。
    • CD1a陰性: ランゲルハンス細胞組織球症との鑑別に役立ちます。

画像診断

画像診断は、病変の範囲や重症度を評価するために使用されます。

  • 超音波検査: 主にリンパ節腫脹の評価に用いられます。
  • コンピュータ断層撮影(CT)および磁気共鳴画像(MRI): 節外病変の存在や広がりを確認します。特に、中枢神経系の病変評価には磁気共鳴画像が有効です。
  • 陽電子放射断層撮影(PET-CT): 活性病変の分布を評価し、治療計画の立案に寄与します。

血液検査

  • 血液所見: 白血球数の増加や貧血が認められることがあります。
  • 炎症マーカー: C反応性蛋白(CRP)や赤血球沈降速度(ESR)の上昇が一般的です。

遺伝子検査

一部の患者において、ミトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ1(MAP2K1)や神経芽細胞腫関連RAS遺伝子(NRAS)の変異が確認されています。これらの検査は、分子病態の理解を深めるために役立ちます。


鑑別診断

ロサイ・ドルフマン病は以下の疾患と症状が類似するため、慎重な鑑別が必要です。

  • 悪性リンパ腫: 無痛性リンパ節腫脹がみられるため、注意が必要です。
  • ランゲルハンス細胞組織球症: CD1a陽性である点がロサイ・ドルフマン病と異なります。
  • 血球貪食症候群: 発熱や炎症マーカー上昇は共通しますが、ロサイ・ドルフマン病では血球貪食が認められません。
  • 感染症(結核や真菌感染症など): 症状が類似する場合があるため、感染症の除外が必要です。

診断の流れ

  1. 臨床評価: 症状や病歴を詳細に確認し、リンパ節腫脹やリンパ節以外の病変を評価します。
  2. 画像診断: 病変の広がりや重症度を確認します。
  3. 生検: 病理検査による確定診断を行います。特にエムペリポーシスや免疫組織化学的所見が決定的です。

治療と管理

ロサイ・ドルフマン病は多くの場合、良性で自然寛解することがあります。ただし、症状が重篤な場合や重要な臓器が影響を受けている場合には、積極的な治療が必要です。以下に治療選択肢と管理戦略を示します。


経過観察

ロサイ・ドルフマン病の患者の中には、治療を必要とせず自然寛解に至る例が少なくありません。軽度の症状や臓器機能に重大な影響がない場合は、経過観察が適切とされます。この場合、定期的な画像診断や血液検査を行い、病勢の進行や新たな病変の発生を慎重にモニタリングします。経過観察中も、患者の生活の質を維持し、必要に応じて補助療法を提供します。


薬物療法

症状が進行した場合や多臓器にわたる病変がある場合、薬物療法が適用されます。

ステロイド療法

  • 目的: 炎症を抑え、腫瘍の縮小を促します。
  • 使用例: プレドニゾロンが主に使用されます。
  • 注意点: 長期使用は感染リスクや骨粗しょう症などの副作用を伴うため、投与期間と用量を慎重に管理します。

化学療法

ステロイド療法が無効な場合や重症例には、以下の薬剤が用いられることがあります。

  • メトトレキサート、ビンクリスチン、シクロホスファミドなど。

分子標的治療

  • 対象: 遺伝子変異(ミトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ1や神経芽細胞腫関連RAS遺伝子)が確認された患者。
  • 治療薬: ミトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK)阻害薬(例: トラメチニブ)。

免疫療法

  • 治療薬: 抗CD20抗体薬(例: リツキシマブ)が選択される場合があります。

放射線療法

局所的な病変による症状を緩和するために使用されます。

  • 適応例: 中枢神経系や骨の病変で、重要な構造を圧迫する場合。
  • 効果: 病変の縮小と症状の緩和。
  • 注意点: 全身性または多発性の病変には効果が限定的です。

手術療法

外科的切除が可能な場合、手術が第一選択となることがあります。

  • 適応例: 病変が局所に限局し、重要な臓器を圧迫している場合。
  • 利点: 病変を完全に除去できる可能性があります。
  • 注意点: 再発のリスクがあるため、術後のフォローアップが不可欠です。

合併症の管理

ロサイ・ドルフマン病に関連する合併症を適切に管理します。

  • 中枢神経系病変: 神経症状の緩和を目的に、ステロイドや放射線療法を併用します。
  • 眼窩病変: 視力を保護するため、早期治療を行います。
  • 骨病変: 痛みの緩和や病的骨折の予防が重要です。

治療の選択肢と戦略

軽症例では経過観察と必要に応じた局所治療が基本となります。中等度の症例では、ステロイド療法や放射線療法を中心とした全身治療が適用されます。重症例または再発例には、化学療法、分子標的治療、手術療法を組み合わせた集中的な治療が行われます。


フォローアップ

治療後も定期的な観察が必要です。

  • 画像診断: コンピュータ断層撮影、磁気共鳴画像、陽電子放射断層撮影などを使用して病変の有無を確認します。
  • 炎症マーカーと症状の評価: 血液検査と臨床症状の確認を行い、副作用や再発を早期に検出します。
この記事を書いた人
Dr.Yale

医学部卒業後、皮膚科学の奥深さと魅力に惹かれ、皮膚科医としての道を歩み始めました。臨床での豊富な経験を通じて、commonな疾患から美容皮膚科まで幅広く対応し、多くの患者様のサポートをしてきました。
患者様一人ひとりに寄り添った診療を心がけています。

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